リーダーは、コンパッション(慈悲心)を土台にすることが大切です。誰のために働いているのか、ということです。コンパッション(慈悲心)とはよく誤解されがちですが、共感でも、同情でも、奉仕の精神でもありません。この人たちの苦しみに対して何かしなければという強い気持ちに、突き動かされること。それがあれば一時的にはくじけることがあっても、それが短い時間で済む、回復力(レジリエンス)が備わるのです。

リーダーシップの定義とは、「平凡な人が、非凡なことをする」ということです。難民として生まれ育った私の人生そのものがレジリエンスを反映しているかもしれません。デリー大学3年生の頃にアメリカのロースクール9校に願書を出しすべて断られました。ですが、諦めずに、翌年にまた再挑戦し、今度は8校に合格しました。それでハーバード大学ロースクールに進学できたのです。それも、レジリエンスだったと言えるかもしれません。

私自身は、仏教のシャーンティデーヴァという聖人による教え(『入菩薩行論』)から学んでいます。とくに「何か問題や困難を抱えているとき、その問題が解決できるなら、心配する必要はない。また、その問題が解決できないのならば、それを心配することは意味がない。」という言葉に、いつも大きな支えを得ています。

リーダーの立場にいる方たちにはとくに、また私の場合、もともと難民である人生そのものがそうですが、ローラーコースターのようにアップダウンがあります。良いときもあれば、また、困難や試練・負けもあります。慈悲心は、実は自分のバランスを取ることにも役立つのです。

うまく行っていて自分のなかで「傲慢さ」が湧き上がってきたときには、慈悲心があることで「謙虚さ」も生まれます。また苦難ときや失敗したときには、慈悲心によって、自分は誰のために力を尽くしているのかを改めて思い出し、もう一度立ち上がり、前進し続けるレジリエンスを育むことができます。

そのように「1 慈悲心(Compassion)」「2 平静心(Equinimity)」「3 全体を包括的に観る目(Holistic perspective) 」を養うことが、リーダーには重要です。

<講演での質疑応答より>
Q. 日頃の生活の中で、どのようにして、そのようなこと(レジリエンスやレジリエンスを育むために必要なこと)を養うことができるでしょうか?

センゲ主席大臣:それらを養う方法のひとつに、(チベット仏教をベースにした)瞑想があります。「1 一点集中の瞑想(Single-pointed meditation)」「2 分析的瞑想(Analytical meditation)」「3 トンレン瞑想(Tonglen meditation)」という瞑想です。それをまずは学び、実践することです。とくにトンレン瞑想は「与える+取り去る」という意味で、一番難しい瞑想ですが、リーダーとして不可欠な慈悲心を育む助けになります。

~2017/2/16開催・センゲ主席大臣講演「リーダーシップとレジリエンス」より~

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写真(左から):島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)・Dr.ロブサン・センゲ氏(チベット亡命政府 主席大臣 、法学博士)・船橋力氏(文部科学省 MEXT トビタテ!留学JAPAN プロジェクトディレクター)