死が近い人を前にできること

質問:
深い苦しみ、たとえば、死が目前に迫るような重い病気の方などに対し、相手の方の苦しみを減らしてあげたいと願い、何かしようとしても何もできない状況もあると思うのです、そういう状況でどうしたらいいのか、先生のお考えをお聞かせください。

Dr.バリー・カーズィン:
まず、素晴らしい質問をありがとうございます。

自分は完璧な人間だと思う方はいますか?いらっしゃいますか?もちろん完璧だと思っている方も、ときどきいると思うんですけども。

私たちは完璧ではない。ブッダでさえも、人の苦しみを全ては取り除けなかったわけです。もし取り除けていたら、私たちは今ここに居ないはずなんです。なので、多くの状況で、私たちが何もできないという状況は、確かにあります。つまり、苦しみを完全に取り除くという意味では、何もできない。ただ、そこまで行かなくても、何かできることはたくさんあるんです。例えばにっこりと微笑むことはできます。それから、その方の肩に手を置いたり、手を握ったりすることはできます。それから、ただ一緒に座って、価値判断を持たずに、一緒に居ることはできます。実は、死を迎えるという方にとって、こういうことが、非常に意味のある大切なことなのです。私は、ちょうど今言っているようなことを、医師の方々にお話しします。医師というのは、患者さんが死に向かうしかないときに、自分が失敗したと思いがちなのです。つまり治療という意味では、「自分から差し出せるものはもう何も無い」と思ってしまいがちなのです。

そうすると、医師の方が患者さんから離れてしまうのです。私からドクターたちに言うのは、実はそれと逆なのですよ、ということです。実はそういうときこそ、今、死を迎えようとする方にとって大事なことなのです。そして、その方の家族にとって最も大事な瞬間なのですと言います。なので、私からドクターに言うことは、「そういうときこそ一緒にいてください」ということです。「どんなに忙しくても2分でいいからそこにいて座ってください」と言います。そして「医師として巡回しているときに、病室に近づいたら2分でいいから一緒にいてください」と言います。そして何の価値判断も持たずに、批判的な態度を持たずに居てくださいと言います。なので、ある意味で苦しみを治してあげることはできないとしても、そうでなくてもできることがたくさんあるんです。でも、だいたい医師たちは「何を言っていいか分からないのです。」と言います。そのときに私が言うのは、「何も言わなくていいのです。ただそこに居て、価値判断を持たずに座っていればいいのです。たまには触れてあげる、手を置いてあげる。それだけで、自分の心をできる限り開いて、何も批判せずに、価値判断を持たずに居てあげるだけでいいのです。」と言います。実は、これこそが本人にとっても家族にとっても、素晴らしい治療なのです。そして、医師自身にとっても、素晴らしい治療になるのです。
ありがとうございます。