
20歳代と30歳代に、私の人生を変えた、とてもつらい出来事がありました。
まず、とても優しかった母が癌(がん)になりました。母はまだ若かったにもかかわらず、治療の甲斐なく、その病気で亡くなりました。
その後、学生時代に出逢った女性と結婚した私は医学の道へ、妻は法学の道へと、お互い歩みました。それぞれの道を学びながら支えあう、とても幸せな日々でした。
ようやく勉強を終え、彼女が弁護士として、私は医師として仕事をはじめた頃のことです。今度は妻が重い病気だとわかりました。余命数年という重篤な癌(がん)に侵されていたのです。
そうして彼女は、静かに息を引き取りました。その後、私は、亡くなった妻の笑顔を思い出せるようになるまで3年かかりました。つまり、つらい思い出が、明るい思い出になるまで、私の場合は3年かかったということです。
当時、決して積極的に自殺しようと考えていたわけではありません。ですが、思い返せば、いつ死んでもいいような自己破壊的な行動をしていたと思います。私は大自然の中で楽しむスポーツが大好きなのですが、その頃はとても危険なスポーツをよくしていました。あとで友人たちに、「あれはいつ死んでもおかしくなかった」といわれたほどです。それくらい、自分の命がどうなってもいいような、投げやりな態度で生きていたのだと思います。
私は、若い頃に立て続けに、人生にとって大切な人、愛する人を2人失うという経験をしました。この経験はやはり大きく影響していると思います。
その当時、すぐには気づけなかったのですが数年が経つうちに、私はこの2人からいかに素晴らしい恩恵を受けたのかが、本当にわかるようになりました。私はこの2人から多くのもの、生きる上で大切なものを学びました。
生き方について、愛について、そしてコンパッション(慈悲)について・・・。
それらが本当にゆっくりと少しずつわかるようになり、何十年も経った今、ようやく実践できるようになりました。
― バリー・カーズィン
「チベット仏教からの幸せの処方箋」より抜粋