「新しい変革のために」2018/11/11 グローバル・リーダーシップ・プログラム報告

2018年11月11日、今回で7回目となる「グローバル・リーダーシップ・プログラム」が開催されました。こちらはビジネスなど様々な業界のリーダーや改革を目指している人たちに向けたプログラムですが、今回のテーマは「コンパッション・イノベーション:私心なきリーダーシップ」として、リーダーのあり方についてはもちろん、具体的にマインドフルネスを職場に導入するための課題について共に考えたりと、いつも以上に熱気ある時間となりました。

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まずはDr.バリーからの講演として、ビジネスにおいて土台となる重要な考え方や、これからのリーダーのあるべき姿についての話がありました。

「大企業であることには長所も短所もありますが、そのうち短所というのは、現状維持の姿勢であり、それにより創造的なことや変革が妨げられてしまうということです。

そうやって短期的にビジネスを考えてしまうと、ごまかしや汚職につながります。なぜなら他者を喜ばせようとしすぎてしまうからです。私たちは子どものときは両親を、成長すると先生、大人になると上司を喜ばせようとします。それに対して長期的にビジネスを考えると、誠実であり敬意があって、高い評価につながります。
企業も元々は正直さと信頼という良い意図を持って始まっているのですが、それが欠けてくると、過ちや不祥事に繋がってしまいます。企業の文化の中に、誠実さや信頼があるときにはオープンなコミュニケーションが存在しますが、それがなければ疑いや恐れの文化ができていきます。

また、リーダーとなる人は、自分の中に健全な自信を育むのがとても重要になります。それは自分のことも卑下しないし、他者のことも見下げないということです。これは謙虚さにも近いものです。かつては謙虚さは弱さだと見る人もいましたが、21世紀では、強さと勇気の象徴です。健全な自信はコミュニケーションの向上につながり、生産性も向上します。特にレジリエンス、自分の中の回復力を向上させることができます。また様々なスキルを獲得するトレーニングにも繋がっていきます。

最高レベルのリーダーシップには、無私の姿勢が必要です。それはコンパッション・思いやりがあり、心から従業員を大切にするという姿勢です。つまり自分の幸せや権力、お金だけに興味がいくわけではない、ということです。反対に自分本位や利己的であったり、権力や決断、信じられない額の給料などの全てを自分のものにしたがるリーダーというのは古いスタイルであり、21世紀のものではありません。

・・皆さんに秘密を言っていいですか?それは、リーダー自身が私心なき無私の姿勢で働くほど、その人自身が幸せになる、ということです。これは、本当のことです」

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それから、世界的に導入されているマインドフルネストレーニングの事例や効果などの紹介がありました。

・2011年にはアメリカの労働人口の11%がヨガ、8%が瞑想を実践していたが、6年後の今年2018年には、20%の企業がマインドフルネストレーニングを実践しており、さらにコンパッションのトレーニングも含まれてきている(グーグル、ゴールドマンサックス、ハーゲンダッツ、インテルなど)

その他、マインドフルネスの短期間トレーニングによる効果の研究事例を紹介すると、

・20%の集中力・パフォーマンス向上、それによる20%のコスト減。また、従業員一人あたり年間約1500ドル〜3000ドルのコスト減、利益率増があった。

20%の生産性の向上、年間1000万円の従業員の給料増、雇用主からみて200万円の節約になった(2014年のエイケンズ博士の論文)

集中力の持続時間の向上。集中力の持続時間をのばすと個人的には幸福感の向上につながり、従来の枠にはまらない考え方ができ、イノベーションやクリエイティブな改革ができるようになる(2010年のザイムの論文)

1日10分のマインドフルネストレーニングをしている人は、他の人よりもキャリアアップが早い(2016年のハーバードビジネスレビューの記事)

さらに今はマインドフルネスが主流ですが、今後そこにコンパッションも組み合わせると、企業としてさらなるコスト減、長期的には従業員のメンタルヘルス改善が考えられるとのことです。そして、まとめとして瞑想とマインドフルネスによる効果があげられました。

・集中力・学習力の向上
・クリエィティビティの向上
・穏やかな心を保てる
・心が明晰になるので広い視野を保て、より良い決断ができるようになる
・健康増進、心臓病や血圧への効果

これらの効果もあり、現在世界中の産業界のCFOやリーダー、アスリート、医療関係者などがマインドフルネストレーニングを導入しようとしています。

その後、実際に参加者の皆さんと、マインドフルネスを育む瞑想体験も行なっていきました。

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講演の最後にDr.バリーから、コンパッションを育むための仏教の教えとして伝えられたことがありました。

「ブッダは人生とは不満足なものであり、完璧にはならない、と教えました。しかしそれには原因があり、人生を意味あるものにするための機会はある、とも教えました。

そのために大切なことは、より深いレベルでは自己というものはない、と認識すること。これが無我の教えです。それに則ると、私たちは自分自身をそれほど深刻に捉える必要はない、ということです。例えば、誰かが何かをしてくると、私たちは怖がったり、怒ったり、落ち込んだりと反応しがちです。しかしそれは、「自分はこうだ」という強い思い込みがあるからです。ブッダは、そのような「確固とした自分だと思っている存在」はない、と言いました。

そして私たちが自分のことを深刻に捉える必要はないということになると、自分以外の他者にもっと思いやりの気持ちをもつことができるようになるのです」

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その後の質疑応答では、実際に職場でマインドフルネスを実践しようとしている、もしくは企業に導入しようとしている方々からの、現場の悩みが寄せられました。

質問「怒りのマネージメントについて、できるだけバランスをとったリーダーでいたいのですが、職場のスタッフとの関係でつい怒りを表現してしまいます。周りからは話を聞いてくれると言われたりもしますが、時々怒りをコントロールできず、健全でないストレス解消をしてしまったりします。マインドフルネスも実践してはいますが、行き詰まっている感じがあり、どうしたらいいでしょうか?

Dr.バリー「まずは勇気をもって、正直なシェアしてくださってありがとうございました。
怒りを減らすのに役立つのは、期待に関わることです。人によっては自分に高い期待をかけています。子どもの頃から完璧であれ、と育てられてきたのかもしれません。
もちろん期待はやる気や成長に繋がったりもしますが、あまり完璧を求めすぎると障害になり、それが失敗や鬱、自傷行為のきっかけになったりします。なので、自分への高い期待をほんの少し下げることをお勧めします。結果的に高い目標を達成したいとしても、まずは低い目標を掲げてそれを達成し、達成感や喜びを感じてから、高い目標を目指すのです。これをやったとしても、失うものは何もありません。逆にたくさんのものを手に入れます。メンタルヘルスの観点から言えば、ウェルビーイングや幸せを達成できるのです。

もう1つのアプローチはマインドフルネスと関係があり、できる限り自分の内面で起きていること、特に怒りの兆しに気づくということです。怒りは、初期の段階で介入する必要があるからです。人によって兆候は異なりますが、心臓の鼓動や呼吸が速くなる、汗をかく、イライラするなど・・そういう兆候に気づいたら、今わたしは怒っているんだ、ということに気づくことができます。そして、そのような感情が雲に変わることをイメージし、その雲が空に漂って完全に消えていく、という想像をします。これも最初からうまくはいかないでしょうが、何度か試しているとうまくいくと思います。

今回の質問は倫理的なリーダーに必要なことです。怒っていることが多いと、無私やコンパッションの姿勢になりづらいからです。でもあなたはすでに実践されていらっしゃいますし、すでにお持ちのコンパッションをいかに大きくしていくかだと思います」

質問「今、会社でアンガーマネージメントを導入しようとしていますが、社員の20%しかセミナーを受けてくれません。こちらから機会を提供しようとしても、リーダーなどがそれが必要ということに気づいていない場合、どうやって気づいてもらうことができるのでしょうか?」

Dr.バリー「それには、教育とロールモデルが必要です。まずは実践している人たちがロールモデルとなって、重要性を示していくしかないかもしれません。すると他の人たちもそれに気づいていく可能性があります。
もうひとつは教育です。今、会社全体の20%の人が受けているというのは実は多いと思います。それを受けた人たちが、役に立つということを仲間に伝え、さらに多くの人が受ける、というように広がっていくと思います。それでも上司の人たちが受けなかったとしたら、そういう人たちにもコンパッションを持つことが必要で、彼らも心の中は傷ついている、と考えていくことが私たちの実践になります。
いま、世界中でこういう動きが起こっているので、あなたは孤立していません。なので忍耐力も必要です。社外の人たちとも繋がったりして、ぜひネットワークをつくってください。 素晴らしいことをしていますので、決して諦めずに続けてください」

その後のディスカッションでは、参加者同士で少人数のグループをつくり、今日の気づきや、今後実践していきたいことをお互いに話し合っていきました。様々な業界で活躍する方々がお互いの経験をシェアすることで、とても刺激的な時間となったようです。

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ディスカッション後には、このようなコメントが寄せられました。

・バリー先生や、グループの仲間から励まされました。

・ここに来て心に響いたことを、これから実践して広めていきます。もっと会社を巻き込んでいきたいです。特にマインドフルネスをしたいけど、どうしたらいいか分からない人たちに、今日聞いた科学的な根拠なども伝えていきたいと思いました。

・今日は自分が、自分に期待しすぎていること、自分に厳しいことに気づきました。同じ問題を持つグループの方からも励ましてもらえたので、まずは自分に期待をしすぎないということを実践していこうと思います。

・今日のバリー先生の、表情やパワーなどの在り方が印象に残っています。大切なのは、テクニックではないとを感じました。

今回は特に、実際に現場にマインドフルネスを導入しようとしている方たちが多く、その情熱に溢れた回になりました。それを受けて、Dr.バリーからも最後にメッセージがありました。

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「組織の中で新しいことを広めていくには、2つのアプローチがあります。上からと下からです。先ほどまで言っていたのは、自分がまず取り組んで、ロールモデルとして下から働きかけるということです。
逆にトップダウンとしては、今日お話しした科学的根拠や世界的な事例、経済効果などは、リーダーにとって関心のある内容ですので、リーダーの方を集めてそれを伝え、教育することが必要です。でないと、21世紀のスタイルはすでに始まっていますので、それに乗り遅れてしまいます。

ただし、提案するときの私たちの態度も大切になります。特にこういったことでリーダーに影響を与えるためには、自分の正しさに固執してしまうのではなく、敬意をもって接することが大切です。こうして、下からと上からの両方のアプローチをとることはできます。
それから、たとえ最初は少ししか理解されず、「変なことをしてるなぁ」と思われたとしても、そうやってみんなが注目していることは強力だと思います」

新しい変革を起こそうとするには、困難も伴うと思いますが、皆様の姿勢に私たちも励まされる時間でした。引き続き、こうして共に励ましあいながら、ご一緒に広げていけたらと思います。どうも有難うございました。

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